Pfizer co.jp ホーム ファイザー日本法人最新の取り組みSTOP!AMR ファイザーの新入社員と学ぶ AMRと闘うために、私たちが今できること 第1回 「AMRって何だろう」STOP!AMR ファイザーの新入社員と学ぶ
AMRと闘うために、私たちが今できること
第1回 「AMRって何だろう」

感染症はウイルスだけではなく、細菌などさまざまな病原体によって引き起こされます。この病原体に薬が効かなくなる「薬剤耐性(AMR:エイエムアール)」が問題になっており、私たちの生活に大きな影響を与える懸念があります。
そのAMRとは一体何なのか、なぜ問題になっているのか、どのように対策すれば良いのかを、全4回にわたって、専門家の方々にファイザーの新入社員が聞いていきます。
今回は「AMRって何だろう」をテーマに、AMRに詳しい藤友結実子先生にお話を伺いました。そこでわかったのは、AMRは私たちが医療機関でもらう「抗菌薬」の使い方と深く関わっているということでした。



藤友 結実子 先生
国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長



林さん
ファイザーの新入社員。趣味はサウナ、ボルダリング、筋トレ。



板野さん
ファイザーの新入社員。最近はまっていることは「マスカラでどこまで長くまつげを伸ばせるか究める」こと。

INTERVIEW INDEX

1.AMRってナニ?


  
 

藤友先生、今日はよろしくお願いします。



よろしくお願いします。まず、「AMR」という言葉を聞いたことがありますか?



いえ、正直今まで耳にしたことがありませんでした。AMRとはなんでしょうか?



病原体となる微生物から皆さんの身を守るためにさまざまな薬が使われていますが、本来であれば効果のあるはずの薬が、病原体に効かなくなってしまう、あるいは効きにくくなってしまうことを「薬剤耐性」といいます。AMRとは、その薬剤耐性を意味する「Antimicrobial Resistance」の略です。



なぜ薬が効かなくなってしまうのでしょうか?



これにはさまざまな要因がありますが、今回は人的な要因の代表である「抗菌薬の使用」についてお話ししますね。
抗菌薬とは「細菌」を壊したり、増えないようにする薬のことです。生物の成分から作る「抗生物質」と「合成抗菌剤」を合わせて抗菌薬と言いますので、抗菌薬と抗生物質は同じと考えていただいて良いと思います。抗生物質は皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか?


 

はい!抗生物質は聞いたことがあります。



この抗菌薬は、細菌の種類ごとに効果のあるものが決まっています。ただ、同じ種類の細菌であっても、なかには抗菌薬が「効きにくい菌」「効かない菌」が稀に存在することがあります。また、抗菌薬を使っているうちに細菌側でその抗菌薬に対抗する仕組みを作ることがあります。こうして薬が効きにくくなった、もしくは効かなくなった菌を「薬剤耐性菌」と言います。体の中には、皮膚や腸などにたくさんの細菌がいて体のバランスを保っています。抗菌薬を使用すると、抗菌薬が「効きにくい菌」や「効かない菌」が生き残ります。結果的に抗菌薬の効く菌の数は大幅に減り耐性菌が増えてしまいます。抗菌薬を使用することは薬剤耐性菌が出現することにつながります。何も対策をしなければ、今使用している抗菌薬もいずれは効かなくなってしまうのです。



 

薬が効かなくなるのは、とても怖いことですね…。



薬が効かなくなるだけではありません。
抗がん剤治療や手術の時には細菌などに感染するリスクも高く、感染症治療や予防のために抗菌薬を投与することがあります。耐性菌が流行して、治療薬がない状態だとこうした治療ができなくなってしまうこともあるのです。
AMRの問題は、単純に感染症が治りにくくなることにとどまらず、その他の医療にも大きな影響を及ぼすことになるのです。2014年には英国の調査チームが「このまま有効な対策をうたなければ2050年にはAMRによる世界の年間死亡者は1,000万人に達する」と警告も出しているほどです。



AMRは医療に大きな影響を与える問題なんですね。
でも、これはお医者さんや看護師さんなどの医療従事者にしか解決できない問題のような気もします。
 

薬剤耐性が原因の死亡者数
(1年あたりの薬剤耐性とその他主な死亡原因)

※AMR臨床リファレンスセンター インフォグラフィックで知る!薬剤耐性(AMR)
vol.2 薬剤耐性の脅威とは ~知ろうAMR、考えようあなたのクスリ~  より引用

2.風邪に抗菌薬、使っていますか?



いいえ、実は一般の皆さんにもAMR対策に協力していただきたいのです。



私たちにどのようなことができるでしょうか?



抗菌薬の間違った使い方をしないことが、AMRの拡大防止には重要です。
「風邪に抗菌薬は効かない」ということを聞いたことがありますか?



聞いたことはありますが、理由はわかりません。



風邪の原因はほぼウイルスです。
ウイルスと細菌とでは病原体の構造や増える仕組みが大きく異なっており、細菌に効くように開発された抗菌薬はウイルスには効きません。
ですから、風邪をひいた時に抗菌薬を飲んでも効果はないし、早く治ることもないのです。



もし風邪と診断されても、お医者さんに抗菌薬を求めてはいけないのですね。



その通りです。
風邪そのものに効果がないばかりか、先ほど述べたように体の中の耐性菌を増やしてしまうことにもつながります。


 

他にも私たちができることはあるのでしょうか?





感染症をできるかぎり予防することです。
新型コロナウイルス感染症が流行し、手洗いやマスクの着用が進んだことで、コロナ以外の多くの感染症の患者さんが減少しました。これは多くの感染症が自分自身の努力で予防できることを示しています。
感染症にかからず、病院に行かなければ、抗菌薬自体を処方されることもありませんし、病院で感染するリスクを減らすことにもなります。



医療従事者の方だけでなく、私たちにもAMR対策ができることがわかりました。



もう1つ皆さんに知ってほしいのは、AMRは医療だけの問題ではないということです。
実は抗菌薬は畜産や水産、農業など幅広い分野で使用されています。たとえば畜産では、家畜の感染症を治すためだけでなく、病気の予防や成長促進のために肥料に混ぜて使用することもあると言われています。不適切・不必要な抗菌薬の使用により家畜の体内に薬剤耐性菌が増えてしまうと、食肉を通じて我々人間にも耐性菌が広がったり、家畜の排せつ物により川や農産物にまで広がってしまうと考えられています。もちろん人から動物へ薬剤耐性菌をうつしてしまうこともあります。
このように、人の健康を守るためには人だけでなく動物や環境にも目を配って取り組もうという考え方を「ワンヘルスアプローチ」といいますが、まさにAMR対策にはワンヘルスアプローチの考え方が必要なのです。

※ワンヘルスアプローチの詳細はこちら 

3.AMR臨床リファレンスセンターの役割



医療に限らない幅広い分野の連携が不可欠ということですね。
ただ、そうなると国レベルでの対応が必要になるでしょうか。
 



その通りです。
WHOはAMRについて「今日行動を起こさなければ、明日を救うことはできない」(No action today, no cure tomorrow)と警鐘を鳴らし、2015年に「AMRに関するグローバル・アクション・プラン」を公表しました。
日本では2016年に「AMR対策アクションプラン」が策定され、2017年に厚生労働省による委託事業として国立国際医療センター病院にAMR臨床リファレンスセンターが設立されました。

AMR対策アクションプランの内容

分野 目標
普及啓発・教育 薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進
動向調査・監視 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握
感染予防・管理 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止
抗微生物剤の適正使用 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進
研究開発・創薬 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進
国際協力 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進


 

AMR臨床リファレンスセンターはどのような活動をしているのですか。



AMR臨床リファレンスセンターには「臨床疫学室」「薬剤疫学室」「情報教育支援室」があります。
臨床疫学室では感染症や耐性菌、院内感染対策や抗菌薬適正使用のサーベイランスの仕組みを構築し、プラットフォームを作って病院のAMR対策に利用していただいています。薬剤疫学室では抗菌薬の使用量を把握するシステムを構築し、毎年サーベイランスを行なっています。
情報教育支援室では、今まさに皆さんにAMRについてお伝えしているように、AMR対策のために一般の方や医療従事者向けにさまざまな広報・教育活動や情報発信を行っています。

4.まずはお医者さんの処方の意味をくみ取ることから


 

最近のAMR臨床リファレンスセンターの活動で何かわかったことはあるのでしょうか。



2022年8月に、AMRや抗菌薬などへの一般の方の認識について調査を行い、問題点が見えてきました。
処方された抗菌薬を、途中でよくなったので自己判断で飲むのをやめてしまったり、自己判断で飲んだり飲まなかったりした経験のある人が16.2%いたのです。
他にも、自分に処方された抗菌薬を他人にあげたことがあるという人が8.9%いました。

先ほどもお話ししましたように、ほとんどの風邪に抗菌薬は効果がありませんが、「抗菌薬・抗生物質は風邪に効かない」と正しく回答した人は25.2%で、この数年変化がありません。 また、「『抗菌薬・抗生物質は治ったら早くやめる方がよい』は間違い」と正しく回答した人は28.3%、「家にとってある抗菌薬・抗生物質がある」との回答は27.4%、「とっておいた抗菌薬・抗生物質を飲んだことがある」との回答は25.5%でした。一般の方は抗菌薬の正しい知識を十分に持っているとは言えず、またこれらの正しい知識は、若年層でやや低い傾向があります。

※調査結果の詳細はこちら 
 



自分に処方された薬をきちんと飲みきらず、取り置きして、他の人にあげたりする人がいるということですね。



自分の病気と他人の病気では、「症状」が似ていても「原因」が異なることもあります。
お医者さんが診断して処方した薬を、自己判断で自分以外の人にあげてしまうことは、良かれと思って行ったことであっても実は大変危険なことです。
また必要のない人に抗菌薬を使用してしまうと、風邪に抗菌薬を使うのと同じように、体の中の耐性菌を増やして、AMRを広げてしまうことにもなります。



抗菌薬を正しく使う必要性がよくわかりました。



繰り返しになりますが、一般市民の皆さんができるAMR対策は、お医者さんの指示を守って、抗菌薬を正しく使うということです。必要な期間を守らずに途中で使用を止めるということは、中途半端な薬剤の血中濃度で耐性菌が出現する機会を増やしますし、あるいは他人にあげるということはそもそも危険で、不適切な使用はAMRの拡大につながります。
風邪を引いて病院に行ったときに「解熱剤しか処方されなかった」と不安に思う患者さんもいるかもしれませんが、前半で述べたように風邪には抗菌薬は効かないので処方されません。
抗菌薬が処方されなかったということにも意味があるということを、みなさんも理解してほしいと思います。お医者さんを信じることもAMR対策の重要な一歩です。
 

今回のポイント
 

① AMRが広がると、抗菌薬が効かなくなって感染症の治療が難しくなる危険性があります。
② AMRは「ワンヘルスアプローチ」の考え方で、皆で協力して取り組んでいくことが大切です。
③ 抗菌薬を正しく使う(飲み切る、他人にあげない)ことが、今私たちにできることです。

 

※掲載されている本文と写真は取材当時(2022年11月)のものです

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